こんばんは、瀬潟です。"Heat and Learning"の講読シリーズの2日目です。今日はIntroductionの内容について紹介します。
Heat and Learning
Introduction:
本章においては、暑さが学習や生産性に及ぼす負の影響について、既往研究の成果が述べられるとともに、本研究の新規性や研究手法について記述されている。既往研究の成果としては次のようなものが引用されていた。
気候が暑い国々は往々にして貧しくなる。1カ氏温度上昇するごとに平均として一人当たりGDPが4.5 %減少する（Dell et al., 2009）。全米での調査において、1カ氏温度上昇すると、3年生から8年生の数学の成績が標準偏差で0.004ポイント減少する（Fahle et al., 2017）。
また、暑さは、健康や病気による負担（Schwartz et al., 2004; Bleakley, 2010; Deschênes and Gre-enstone, 2011）や発展途上国における農業収入、栄養状態、教育における機会コスト（Schlenker et al., 2006; Garg et al., 2017; Shah and Steinberg, 2017）、経済活動、制度水準、政治的安定性（Ace- mogle et al., 2001; Dell et al., 2012, 2014; Hsiang et al., 2013）による効果を通して、間接的に学修に影響を及ぼすことが知られている。ゆるやかな温度上昇でさえ、意思決定を損ない、不快感の元となる（Albouy et al., 2016）。
本研究において、我々は3つの基礎的な発見をした。1つ目に、暑さにさらされ続けると、学修の到達度が損なわれるということである。温度が15 ℃から20 ℃程度である学校期間と比較したとき、温度が32 ℃から37 ℃の日があるごとに、1年間の学修成果の1 %の6分の1が損なわれる。これが37 ℃を超える場合、その値は50 %にものぼる。
2つ目に、暑さは正規課程の時間帯における生産性を減じることによって学習の到達度を損なうということである。授業のある日に高温環境にさらされることによって、試験の成績に負の影響があり、長期休暇や休日における猛暑は到達度に対する負の影響はほとんどない。
3つ目に、学校におけるエアコン設備は、学修到達度における暑さの蓄積の影響のほとんどを相殺するものであるということである。教室のエアコン設備のない学校から全教室にエアコンが完備された学校に移動することによって、78 %もの影響を減じることが示唆された。
暑さが人間の認知や行動に及ぼす負の影響は、他の研究でも指摘されている。熱ストレス環境におかれることで、労働力供給や生産性が損なわれ（Hsiang, 2010; Graff Zivin and Neidell, 2014; Be-hrer and Park, 2017）たり、攻撃的な行動が増える（Kenrick and MacFarlane, 1986; Hsiang et al., 2013）ことが知られている。最近の研究においては、試験期間中の暑さによって、ニューヨークの高校生の標準的な卒業試験（Park, 2017）や5歳から14歳のアメリカ国民を対象とした任意の数学の試験（Graff Zivin and Neidell, 2014）、インドにおける小学生と中学生の認知力評価（Garg et al., 2017）における成果を減じることが示された。
エアコン設備の緩和効果における我々の分析は、教育インフラに対する特定の投資の効果に対し、根拠を与えるものとなる。さらに、本研究は我々が把握する限りにおいては、人間の資本蓄積という側面における、適応の有効性に関して初めて研究したものである。
黒人とヒスパニックの生徒は白人よりも暑い地域に住む傾向にあり、暑さは白人よりもマイノリティの生徒に対してより影響するという2つの理由のために、暑さによる影響は、アメリカにおける人種間の到達度の差の13 %に対し説明を与えるものであることが議論できる。
最後に、学校におけるエアコン設備は、気候変動によって予想される気温上昇のために引き起こされる将来的な収入減少に対し、1教室の1年間当たり25,000ドル以上相殺できる可能性がある。
明日は第2章の Data and Empirical Strategyを読んでいきます。お付き合いありがとうございました。